第3章ギブソンの直接知覚論との対立
パネル3-1 ギブソンの直接知覚論の特徴
1. 網膜映像(=visual field)は,外界(=visual world)を直接知覚させる
2. 網膜映像とは,孤立した単体としての視対象ではなく,周辺視野に写り込んだ雑多な視覚映像(包囲光)の総体=高次網膜像手がかり(higher-order retinal cues)
3. 視対像のもつ“意味”さえも,解釈・推論を必要とせず,“アフォーダンス”として対象物そのものに内在する
3.1 恒常性をめぐるギブソン批判
パネル3-2 19世紀の2人の生理学の巨人に発する
“知覚の恒常性”の説明原理(ロックによる)
1. ヘルムホルツに発する“斟酌説(take-into-account theory)”:網膜情報以外の情報が経験に基づき斟酌される
2. へリングに発する考え方:恒常性を発動するのに必要な情報は,網膜像にすでに与えられている:ギブソンが含まれる
パネル3-3 “位置の恒常性”の説明をめぐるギブソンとロックの対立
1. ギブソン:現象的静止や自分自身の動きの経験は,包囲光を取り込んだ高次網膜像情報だけから直接知覚される
2. ロック:そのような説明では,頭の動きを感知する前庭器官に障害をもつ患者が示す“位置の恒常性”の崩壊などが説明できない
パネル3-4 「どちらが正しいか?」についてのロックの折衷的立場
大きさの恒常性:ヘルムホルツによる説明が有望
明るさの恒常性:へリングによる説明が有望
パネル3-5 ロックは最終的には折衷的立場に立たなかった
=第2グループに属する恒常性も間接性を本質とする
1. 形の恒常性:最終知覚として円に見えるのみならず,楕円も知覚される
2. 明るさの恒常性:見かけの白さが同じなのに2つの領域間の明るさの違いに気づくことがある
3.2 知覚の間接性
パネル3-6 ロックによる斟酌説批判
1. 斟酌説では,確かに近刺激相を想定しているが,それは即座にさまざまな情報により修飾され,近刺激相そのものは知覚に上がらないと考える
2. それくらいなら,いっそ感覚−知覚を異なる2過程とする古典的見解の方がましだ
3. 近刺激相の経験は,感覚としてではなく知覚として捉えるのがよい
4. 最終的に到達するのは,知覚の段階説
パネル3-7 知覚の段階説を支持する実験例
1. 正方形と菱形:まず定位の“知覚”があり,しかる後に形が“知覚”される
2. 近接の原理に基づく群化:面の傾斜を3次元的に“知覚”し,その配置を踏まえて3次元空間内での近接が群化を引き起こす
3. 明るさの対比:網膜像レベルの物理的近接ではなく3次元空間内での近接が知覚され,それに従う対比効果が生じる
パネル3-8 最終知覚段階の前段階にある次のような過程も,
感覚ではなく知覚である
1. 形の知覚の前段階の向きの知覚
2. 近接による群化知覚の前段階の知覚された近接
3. 明るさ知覚の前段階にある知覚された隣接性
パネル3-9 ロックの段階説に対して想定される批判
批判:前段階にある知覚と最終知覚とは因果関係にあるのではなく,単なる同時的事象でないか?
ロックの反論:もしそうなら,2つの知覚のあいだに対称性が見られなければならない.しかし,そのような対称性は認められない
3.3 知覚の計算理論
パネル3-10 計算論者は,ギブソンの次の2つの論点を批判する
1. 光学情報はそれだけで環境的場面を復元するのに十分である
2. 知覚はそれゆえに直接的であり介在物を要さない
パネル3-11 マーによるギブソン批判
1. 画像表面のような物理的不変項の検出は,現代的用語を用いれば厳密に情報処理の問題であるが,ギブソンはそのような情報を検出する本当の難しさを正しく理解していなかった
2. ギブソンは“包囲光”など観察者中心の視世界表象を思い描いていたが,最終的にはそういった観察者中心座標ではなく物体中心座標系内で空間構造は記述されなければならない
パネル3-12 ロックの間接的知覚論は,計算論に斉合する
1. さまざまな情報を斟酌し知覚の段階性を主張するロックの考えは,マーの図式と矛盾しない
2. 「知覚は問題解決過程だ」という考え方が,計算論的なアルゴリズムの構築にどの程度貢献できるかは今後の検討課題