明星大学通信教育部2001年夏期スクーリング教育心理研究法を受講した皆さんへ
スクーリング中,吉村が担当したクラスで行ったテスト時の質問に答えて
●心理テスト・ストレスコーピング質問紙
○子どもに心理テストを行う場合,どのようなことに気をつける必要がありますか?
→大人に対して用いられる集団式の質問紙法よりも,鈴木ビネー知能検査のような個別式の心理テストを用いるのが基本になります.子どもとラポールをとったテスターが,子どもの反応の仕方を図りながら進めてゆく方式で実施されます.
○質問紙形式の調査を受けているときにいつも感じることがある.「考えると分からなくなるので,直感的に答えてください」という指示があるが,質問の趣旨が分からないものが必ずでてきて,そういう場合はたいてい「どちらでもない」にマークしてしまう.そのようなことは私以外でも多いと思うが,これで本当に意味のある結果が得られるのだろうか?
→質問紙法では,質問群の組み合わせで総合評価します.だから,少数問だけなら思い違いして答えたりしても,それで評価が大幅にくるわない頑健さがあります.しかし,その人の回答スタイルに一貫した偏りがあれば,そうはいかなくなります.故意にそのような偏り(自分をよく見せようとして回答するなど)のある場合はもちろんのこと,特殊な回答スタイルをとるため,本来とはずいぶん異なる結果を来すことがあります.そのような人は,質問紙法による査定に向かない人だと言えます.
○質問紙検査に答える場合,いつも,もう一人の私が口出しして困る.たとえば「誰かに暖かい言葉をかけてもらおうとする」という質問の場合,「あまり行わない」に○をつけるが,もう一人の私が「ウソウソ,つらい顔してるよ」といって,「よく行う」に○を付け変えたりする.
→これは,“現実自己”と“理想自己”のずれに関する疑問と見なすべきと思います.心理テストの中には,両者のずれを測定する質問票もあります.両者のギャップが大きいと,セルフ・エスティーム(自尊感情)が低くなると言われています.
○創造性は,どのようにして測られるのでしょうか? スクーリングで実施した天秤の問題は,創造性を測ることにつながるのではないでしょうか?
→創造性テストは,一般の知能テストとは異なり,基本的に正解のない問題で構成されます.たとえば,いろいろなアイデアを生み出す能力を問う問題などです.「新聞紙の使い方を思いつくまま上げてください」と言うように,拡散的思考(知能テストで求めるものは収束的思考です)を求めます.知能テストを解説する書物には創造性テストについても触れているはずですので,調べてみてください.
○ストレス解消法で知的な解消法というサブ・カテゴリーがありましたが,人は落ち込んでいるとき,自分をどんどん責めていく方向に考えてしまいます.そんな過程も客観的に見ることができたら,知的なストレス解消法が技術として利用できるのでないかと考えました.
→ストレス・コーピングからはずれますが,心理療法の一種に「論理療法」というものがあり,感じ方・考え方の矛盾や思い込みをカウンセラーが追究してゆくことによって治療してゆく方法があります.
○GCQをやっている途中で,質問が4つに分かれていることにすぐ気づいたのですが,被検者に分かってしまっていいのですか?
→質問紙法の弱点とされる点です.何を尋ねられているかが被検者に分かってしまい,したがって意識的に回答が歪まされてしまう危険性です.質問紙法・作業検査法・投影法などの長所と短所については,心理検査を解説した書物には必ず書いてありますので,勉強してみてください.
○質問紙検査は,被検者の主観に頼るものですからけっこう当てにならないかも…という気がしています.質問の意図がまったく分からないような込み入った質問紙があればいいと思います
.→質問紙法は,被検者が意識していることを問い,それに対して意識レベルで率直に答えてもらうというのが,この方法の本質です.上の質問に対するコメントにも書いたように,その欠点をカバーするには,投影法など他の検査法を用いる必要があります.
●天秤問題・プロトコル分析
○天秤問題に対し,第4の答えを書いてくれた人が2人いました.3個ずつ4グループに分け,そのうち2グループの重さを比べる.どちらかが重い場合は,重い方の3つのうち2つつを天秤に1つずつ載せて比べれば,2回の測定で見つけることができる.それに対し,始めに比べた2グループが同じ重さだった場合は,残りの2グループに対し,同じ作業を行い,3回の測定で重い球を見つけることができる.最初の測定からLogic-based strategyをとったことになります.
○「12個の球があり,その中に重さの違っているものが1つだけある」と配付資料に書かれていたが,このように問えば,「1つだけ他より重いものが混じっている」という問いの場合と問題の構造が違ってくるのではないか?
→確かにそうです.「1つだけ重いものがある」というのと,「1つだけ他と違う重さのものがある(軽いものかもしれない)」というのでは,問題の構造自体が違ってくるようです.前者のように指定しなければ,この問題は解けません.
○先生がアシスタントの人と,あれこれ言いながらビデオ・プロジェクターの用意をしておられたけれど,あれもプロトコル分析の一例ではないでしょうか?先生は,部屋全体の電灯のスイッチの場所が分からなくて躓いていらっしゃいましたね.
→そのとおりです.うまく状況を設定すれば,プロトコル・データは思いのほか身近なところから得られるはずです.そういったデータの方が,生きた現実的データとして価値があると思います.編集機能付き複写機の話題のところで解説したように,二人に相談しながら操作させるという方法は,プロトコル分析において発話を促すのに効果的な方法です.
●認知カウンセリング
○認知カウンセリングで,部屋にテープを置いておくと,カウンセリングを受けている人がそれを意識してしまい,本心の追究が妨げられることはないのでしょうか?
→「カウンセリング」という名前はついていますが,認知カウンセリングはいわゆる心理カウンセリングとは異なり,そのようなレベルでの危惧は必要ありません.
○認知カウンセリングでは,自分から離れた視点から自分を見る(メタ認知)ことで,ある間違いをしてしまうことに対する教訓を手に入れるということのようですが,自分から離れたところから自分を見るための具体的方法はどのようにすればいいのですか?
→本人の独力ではできないので,その点を指導者が把握し,指摘や導きを行うことが,この方法の中核になります.
●統計法
○自由度の出し方ですが,t検定のときは,10-1=9,9+9=18と,足し算でした.カイ自乗検定の際は,2-1=1,1+1=2と思ったのですが,1×1=1でした.検定によって自由度の出し方は違うのですか?
→基本的には,それぞれの検定法での自由度の出し方を個別に覚えてください.しかし,ルールがあります.たとえば,同じt検定であっても,対応のない場合は,10-1=9,9+9=18でしたが,対応のある10組のデータでは自由度が10-1=9でした.これは,20個のデータを20個の入れ物に入れてゆく際に,1つをどこかに入れると,それと対になっているデータも「自由なく」どこに入るかが決まってしまい,結局,9個しか自由度がないわけです.カイ自乗検定の場合は,このように連動して入れ物に入ってゆくことを考えると,行と列の自由度をかけ算して産出してするのが適切なわけです.
○片側検定の意味・使用法がよく分かりません.
→帰無仮説はA=Bと立てるわけですが,この仮説が棄却されたときの対立仮説が,A>BかA<Bのどちらかしかあり得ないことが,理論的または経験的に前提できる場合には,両側検定よりも検定力の強い(有意差がでやすい)片側検定を行う方が有利なのです.具体的使用例は,心理・教育統計の基礎的テキストに必ず解説されているので,それらで習得してください.
○統計では正規分布を基準に考えていくが,実際には正規分布からかけ離れたデータも多い.そのようなときにはどのようなやり方で統計処理を行えばよいのか?
→母集団や標本の分布が正規分布することを前提に作り上げられている統計的検定をバラメトリック検定と言います.それに対し,そうしたパラメータ(正規分布性や分散の等質性など)の条件に拘束されない検定法をノン・バラメトリック検定と言います.統計のテキストなどに解説がありますので,勉強してください.使用条件に制限があまりないという意味では使いやすい検定法なのですが,欠点は検定力が低い,すなわち有意差がでにくい点にあります.
○統計ではどうしてギリシャ文字を多く使うのですか?習ったことがない文字なので,どれがどれだか区別がつきにくく,意味も分かりにくいです.
→授業中にも少し話したように,記述統計の指標を記号で表すときには英語の文字を使い,推測統計での指標ではギリシャ文字を使うことによって,二つの世界を区別するために考え出された,実に気の利いた表現法なのです.したがって,同じ平均でも,えられたデータの平均はm,母集団の平均にはσを使うわけです.
○SPSSでは,分析結果を数値で見ることしかできないのでしょうか?
→そんなことはありません.オプションで指定すれば,さまざまにグラフ化してデータの性質を視覚的に表すことができます.
○カイ自乗検定では,2×2程度のものであれば,どれとどれに差があるのかが分かりますが,l×mの大きな表になると,有意差が認められても,どれとどれに差があるかをどうやって確かめるのでしょうか?
→3水準以上の平均値の差の検定(分散分析)の場合と混乱しているようです.分散分析では,主効果が認められれば,どの水準のあいだに有意差があるのかを検討する下位検定(事後検定)に進みますが,カイ自乗検定の場合には比率の分布にカテゴリー間で違いがあるかどうかを検定するのが目的であって,有意差が認められたからといって,それではどことどことのあいだに有意差があるのかという検討には進みません.
●その他
○インタビュー法で,構造化されないインタビュー法は相手の反応に応じて質問を変えてゆき問題解決の糸口を見いだす“仮説発見型”研究に位置づけられていましたが,この方法では,研究仮説の最終的な結論を導き出すには不十分なのでしょうか?
→向き・不向きから言うと,“仮説発見型”研究に向いた方法であり“仮説検証型”研究にはしにくいと言えます.しかし,何をその研究の最終目標に置くかにより,構造化されないインタビュー法を用いて最終目標に到達することも可能だと思います.ある見解を裏付けるインタビュー・データがインタビューのさまざまな箇所から重ねてえられたり,複数の人たちのインタビュー・データから得られたりすれば,それらがいわゆる裏付けとなり,ある見解を結論づけることができることになります.
○先生への質問や指導願いなどを,e-メールで出していいですか?
→現在すでに,メールでやりとりしている人がいます.ただし,このチャネルだと,通信の事務部の頭ごなしに行うことになり,記録に残りません.私との間でこの方式を始めるに当たっては,事務部にその旨打診し,了承と方式についての打ち合わせを行ってください.
○性質について考えるということは,量よりもずっと捉えにくいことだと思うので,定性的研究については疑問が残る.定性的研究は感情などの複雑な心理面も研究できるのでしょうか?
→複雑なものを安易に量化して割り切らないという意味からは,定性的研究は複雑な心理機能に対し使って行くべき方法だと思います.しかし逆に,複雑なものを量化して定量的研究持ち込むことこそが研究の美学だと考えることもできます.あなた自身がどちらを大切にするかにより,両方の方向性もありうると考えます.
○卒業論文のことなのですが,授業内でアンケートに答えましたが,あのようなアンケートを作成するとき,たとえば,赤い色について,「軽い−重い」「熱い−冷たい」など,人間に対してであれば五感といわれるものをすべて質問項目に盛り込むことが必要なのですか?
→いくつかの形容詞対に対してある対象の性質を何段階かで評価してもらうことがよく行われます.研究目的や評価対象によって具体的形容詞対はさまざまですが,その中身は,評価性,活動性,力量性の3面に大別できる場合が一般です.興味のある人は,SD法(Semantic Differencial法)に関する解説書を読んで勉強してください.
○錯視現象は,相当細かく,しかもたくさんのデータが積み重ねられているのに,なぜその説明や理論が数多くあるのですか? なぜ,明確な一つの説明が得られていないのですか?
→ご指摘のとおり,長い間,いろいろ研究されているにもかかわらず,単一の理論で明確に説明できる錯視は数少ないのが現状です.ミューラー・リヤー錯視もその一つです.物理的刺激どおりには知覚されないメカニズムが備わっているはずなのですが,その働き方を一つのメカニズムで説明することは難しいようです.
○最後に:テキストである『図的に心理学』の著者自身が講義担当者であるのに,そのテキストを用いた講義が行われなかったことに不満や疑問の声が少なからずありましたが,受講生数の関係から2クラスに分けて講義を行い,その片方のクラスのみしか担当できないという事情から,両クラスの講義内容を共通にする配慮をしました.この点をご了承していただきたいと願います.